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月刊熱読レビュー「ヒーローを待っていても世界は変わらない」

湯浅 誠 著 ・ 朝日新聞出版 ・ 2012年8月発行

(9月19日付)

 著者がパネラーのフォーラム「堺市の未来と大阪都構想」vol4の前にと、発売日に購入。おかげで問題意識を少々もって、当日の講演を聞けました。感想を掲載させてもらいます。

 現在の「橋下政治」の言動や政策そのものを、検証、評価、批判する出版は相次いでいます。

 一方、本書は、執筆の直接のきっかけを橋下氏としているものの、橋下氏個人の資質が対象ではなく、橋下氏を含む現在の問題の核心を、「政治不信の質の変化」ととらえたところに、他とは違う議論が展開され、「民主主義のあり方」という主題へとつながっています。

 橋下氏を客観的に分析・批判することは重要だと感じながらも、それだけでは、この状況はなかなか変わらないのではないか、でもどうすればいいのかと、手詰まり感をもっている人へ、これまでにない切り口での処方箋を提示すると同時に、社会における合意形成への関わり方という、橋下氏支持・不支持には関係なく、一人ひとりに求められている現在の課題に対し、共通のテーブルに着く書となっているところに、著者特有の奥深さを感じました。

 いくつか印象に残った点がありますが、一つは、民主主義を理念ではなく、物理的に捉え、その深まり具合を、時間と空間の確保にあると簡潔に示したところです。

 「労働日の制限は、それなしには、いっそうすすんだ改善や解放の試みがすべて失敗に終わらざるを得ない先決条件である」と語ったマルクスの言葉と重なり、労働時間問題に労働組合が取り組む重要性を改めて感じました。

 もう一点は、著者が、署名やデモ、講演会、集会など社会的な働きかけによる世論形成を評価しつつも、それぞれの意見を言い放つだけでは現状は変わらない、苦しい中、心の底からしぼり出すように声を上げたとしても、現状に追いまくられた人たちには「既得権益」に見えてくると、問題提起している点です。

 著者は、特定の者を指して、「言い放っている」と指摘しているわけではありませんが、取り組むべき課題が多く、人や時間は限られたなかで、活動はどうあるべきか、労働組合に投げかけられた高度な問いだと受け止めました。

(Y書記次長)