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ワンコインの名作 レイチェル・カーソン『沈黙の春』

11月29日付

 「《自然の征服》ーこれは、人間が得意になって考え出した勝手な文句にすぎない。自然は、人間の生活に役立つために存在する、などと思いあがっていたのだ。おそろしい武器を考え出してはその矛先を昆虫に向けていたが、それは、ほかならぬ私たち人間の住む地球そのものに向けられていたのだ」
 
 レイチェル・カーソンは、この警世の書を執筆中にガンに侵された。自分の余命を予感しながらも四年の歳月をかけて著作を完成させたのは、化学物質が環境に及ぼす深刻な影響を明らかにするという強い信念によるものだった。
 実際、この本は、食物連鎖と生物濃縮、薬剤の大量散布による副作用、人間の健康被害、害虫の農薬耐性などの複雑なテーマについて、調査や膨大な資料の検討、専門家との文通を踏まえて、科学的に検証している。
 一九六二年に本書が公刊されるやまたたく間にベストセラーとなる一方、産業界からの批判にもさらされた。しかしながら、時代は彼女に味方した。翌年には、ケネディ大統領の科学諮問委員会がこの本を評価し、危険な農薬の使用規制へとつながっていく。
 本書の最終章には、冒頭に引用した文章のほか、次のような一文が掲げられている。「私たちの住んでいる地球は自分たち人間だけのものではないーこの考えから出発する新しい、夢豊かな、創造的な努力には、≪自分たちの扱っている相手は、生命あるものなのだ≫という認識が終始光りかがやいている」。
 人間が自然に与える影響を告発した『沈黙の春』は、マイクロプラスチックなど新たな環境汚染問題が深刻な脅威となる中、この分野の先駆的著作としてこれからも参照され続けるだろう。

(『沈黙の春新潮文庫