10月28日付
カントは、一七九五年に小著『永遠平和のために』を出版した。そのとき哲学者七十一歳。フランス革命後にフランス・プロイセン間で勃発した戦争の平和条約に対する彼の不信が直接の執筆の動機となったと言われている。
この論文は独特の構成をしている。まず第一章として、永遠平和のために各国が準備すべき六つの「予備条項」が論じられる。その内容は、国家の独立の保証や常備軍の撤廃などである。続く第二章で、永遠平和を確実にするための政治体制に関する三つの「確定条項」が提示される。それは、国内においては共和制、国際社会においては国家の連合、そして、世界市民法としての各国を訪問する権利である。最後に、「付録」として、道徳と政治の関係が論じられる。そこでは、永遠平和の実現のためには道徳と政治の一致が必要で、それが実現可能なことが示されている。
この書物において、カントは理想論だけで平和を説いたのではない。冒頭掲出の一節は、第二章の補説として書かれているもので、カントの考え方を顕著に示している。つまり、人間は元来互いに争う傾向があるが、自然の摂理によって、防衛のために国家を形成し、法の支配に服するようになり、戦争を避けるようになっていく。ここの論証は複雑で、詳細は本書を精読するしかないが、自然は永遠平和の到来を保証しているから、私たちは平和の実現に向けて努力する義務があるとカントは結論づけている。
カントの主張は国連の理念的基礎となっていると言われる。平和について考える古典として、また、難解なカント哲学の入門書としても重要な一冊である。
(『永遠平和のために』岩波文庫、講談社学術文庫、光文社古典新訳文庫)