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ワンコインの名作 プラトン『饗宴』

8月18日付

 「愛とは、美しいものの中に何かを生み出すことです」

 ギリシアの哲学者プラトンは、著作をあらわすのに、対話篇という戯曲のような形式を採用した。そこでは、師ソクラテスを導き手として、勇気や正義といった道徳上のテーマについて討論が繰り広げられる。こうした手法を彼がとった理由は、実際に対話を通して「善く生きる」ことを探究した師の姿を活写するとともに、その思想的営みをプラトン自身が継承したからに他ならない。愛をテーマとする『饗宴(きょうえん)』は、そうした対話篇の傑作のひとつとして、彼の著作中、重要な位置を占めている。
 筋立ては、悲劇作家アガトンの祝宴に参加した人々が順番に愛について演説するというもので、トリを務めるソクラテスは次のように語る。愛とは、美しいものへの欲求であり、善きものが永遠に自分のものとなることをめざすものである。そして、美しいものの中に何かを生み出すこと(たとえば子どもの出産や芸術の創作)を通して永遠性を希求する。
 ソクラテスのスピーチは、さらに先へと進んでいく。愛について正しい道を進む者は、外見的な美よりも精神的な美を尊重するようになり(これが「プラトニック・ラブ」の出典にして本来の意味)、ついには、絶対的にそれ自身として永遠に存在する「美そのもの」の認識に至る。
 こうして、プラトンは、愛の最高形態を、真実在を直観しようとする哲学的衝動だと説く。そして、この「美そのもの」という概念は、プラトン哲学の中核である「イデア論」として、以降の著作を通していっそうの進展を見せていく。
(『饗宴』新潮文庫岩波文庫