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ワンコインの名作 ニーチェ「善悪の彼岸」

2月14日付

「生こそは力への意志である」

 『善悪の彼岸』は、ニーチェ後期の著作で、一八八六年に出版された。彼の得意とするアフォリズム形式(断片的な文章を重ね、思索を表現するもの)で書かれ、過去の哲学、伝統的道徳、キリスト教ニーチェが生きた十九世紀後半の精神状況などについて全九章にわたって批判を浴びせている。ここでは、そのうち、書名とも関係の深い、第九章「高貴とは何か」を取り上げる。
 人間の生の本質は、他者や弱者を侵害し、征服し、搾取することにあり、それは、生命の根源である「力への意志」の結果であるとニーチェは説く。そして、人間のランクづけを認め、社会は、高貴な人間が高次の存在へといたるための足場であるべきだとする。高貴な人間は「善悪」という既存の道徳的価値を超えて自ら価値を創造する。
 一方で、一般的な人間は、自ら価値を創造することができず、既存の価値観に基づいて行動する。彼らは、奴隷的な存在で、強者の徳に嫌悪を抱き、世間の評価を頼りとし、自らの生存に役立つ特性のみを重視する。
 ニーチェのいう貴族社会においては、なんらかの奴隷制度を必要とし、高貴な者がそうでない者に対して距離を置くことで、絶え間ない人間の「自己超克」を図ろうとする。そして、その積み重ねが人類を向上させる。
 このようなニーチェの見解は、割引いて考えても挑発的で、主体的・能動的に生きよというメッセージとして受けとるならばよいが、高貴な者と自認するようになるのは危険である。とまれ、この『善悪の彼岸』は、他にもニーチェ哲学のエッセンスが満載で、アフォリズムであるがゆえに、結論を急がず、考えながら、繰り返し読むべき本なのだろう。

(『善悪の彼岸新潮文庫、ほかに岩波文庫光文社古典新訳文庫など)