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ワンコインの名作 第8回

メーテルリンク「青い鳥」(3月27日付)

「この地上には、思っているよりずっとたくさんの『しあわせ』たちがいるんですよ。ただほとんどの人の目に見えないんですね」

 

 チルチルとミチルの物語としておなじみの『青い鳥』は戯曲で、一九〇八年に初演された。クリスマスイブにチルチルとミチルの兄妹は仙女と出会い、幸福の青い鳥を探すように命じられる。兄妹は犬や猫、光や火などの精霊とともに様々な国を旅するが、目的の青い鳥は見つからない。家に帰ったふたりはそこで青い鳥を見つけるという話で、冒頭に掲げたように、幸福は外部の手の届かないところにではなく、心の中や身近なところにあるという教訓が童話劇のかたちで示されている。

 この作品は、題名自体が幸福の象徴として広く使われるほど有名だが、テーマは幸福のありかにとどまらず、科学文明と自然の相克、母の愛など多岐にわたる。中でも濃厚に作品を彩るのは生と死についてであろう。

 最初に訪れた思い出の国で、チルチルとミチルは死んだ祖父母に出会う。しかし、彼らに「死」の観念はない。祖父母は、自分たちは眠っているが、生者が思い出すたびに自分たちは目覚め、そのとき生者と会うことができると話す。

 また、最後に訪れた未来の王国では、まだ生まれていない子どもたちが地球に旅立つその時を待っている。彼らは地上に何かを持っていかなければならず、その発明や発見にいそしんでいる。それは良いものや優れたものとは限らず災いや悪事ということもある。

 『青い鳥』が象徴劇とされるゆえんはこういったところにある。読者(聴衆)は表現からその真の意味をくみ取らなければならないのだ。物語の結末で青い鳥は逃げてしまい、チルチルが謎めいた一言を観客に語りかけて舞台は幕となるが、これをどう解釈するか。読者が様々に考えをめぐらすことこそ作者の意図であるように思える。

(『青い鳥』新潮文庫、四六〇円+税)