堺市職労(堺市職員労働組合)ブログ

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新宮視察を振り返って⑤

(1月26日付)

M・T氏

新宮市熊野川町の概要

 堺から車で約3時間、和歌山県新宮市熊野川町は、県南東部に位置する、面積175.47㎢、人口約1400人(高齢化率約45%)のまちです。

また、山間部の自然あふれるまちで、2004年7月には「紀伊山地の霊場と参詣道」(熊野古道)が日本で12番目の世界遺産に登録されました。

 2005年10月に新宮市熊野川町が合併し、新「新宮市」が発足。2011年8月30日には台風12号による大水害の被害を受けました。

 市では現在、地域の活性化・高齢化・過疎化対策に取り組んでおり、定期的なイベント開催(地域物産展など)や米作り、こんにゃく作り、川遊び、熊野古道ウォークなどの体験交流事業、高齢化対策として医療センターへのタクシー運行や福祉タクシー事業などを実施しています。

 また、地域外から人材を積極的に受け入れ、地域の活性化につなげるため、「地域おこし協力隊」(総務省補助事業)を導入、「ナリワイ研修生」と銘打ち、ナリワイをつくって定住へとつなげることを目的にしています。

熊野川らしいことをしたい」

 熊野川行政局住民生活課にお話を聞きました。

 この中で「合併して10年になる。職員は50人が12人になった」「地域整備についても人数が減って手が届きにくくなっているが、住民の声を出来るだけ聞かせていただくようにしている。防災体制も苦労しており、各地区に職員が配備されるが非常に広範囲にわたって見ざるを得ない」など、合併によって削減された厳しい体制の中での苦労がよくわかりました。

 一方で、「熊野古道世界遺産登録され、観光客が増えている。そのうち7割は外国人観光客であり、宿泊施設、ゲストハウス、食事できるところが足りない。Iターン者の居住場所確保としても空家対策が必要で、民間主体でやっていただきたいと考えている」「県もIターンの支援、定住政策に力を入れている。Iターン者の意見もよく聴きながら、おもしろい、熊野川らしいことをしたい」と、持続できる地域づくりと世界遺産や自然を活かしたまちづくりへの熱意も伝わりました。

地域が活気づく仕掛け

 市の「ナリワイ研修生」事業のひとつである「BookCafeKuju」。

2011年春に熊野川町に移住してきた柴田さん(現在はNPO「山の学校」代表理事)が、台風12号による大水害で大きな被害を受けた地域で並河さん(現在は新宮市議会議員)らとボランティア活動をしていました。その時に市が「解体」を決定していた旧九重小学校の校舎を活用して地域の活性化につなげようと、半年をかけて市と交渉し、地元の了解も得て借受、水害の被害を受けた校舎を清掃・改修して、2013年にカフェをオープン(NPOで運営、地元の人がアルバイト)しました。

 カフェとともに、手作りの窯を備えたパン焼きスペースで地元の麦を使ったパンを販売、遠くから買いに来る人もおり、午前中に売り切れてしまうほどの好評です。

 また京都のガケ書房と提携して書籍コーナーも設け、「日本一僻地の新刊書店」と話題になりました。冊数は多くはありませんが、柴田さんは「ツタヤにない本をそろえたい」と語ります。ブックカフェと手づくりパンは、地元紙、全国紙にも取り上げられ、車で1時間圏内の地元住民や、最近では観光に訪れる人も増えてきたそうです。

若者支援「共育学舎」

 2003年、三枝さんが旧敷屋小学校を活用して、NPO「共育学舎」をオープン。

 ここで若者に住と食を提供し、若者支援の場として運営、宿泊施設としても利用できます。柴田さんや並河さんも「共育学舎卒業生」です。

 これまで様々な人生経験を積んでこられた三枝さんは、若い人たちを呼び戻すために賞金付の「田舎懸賞論文」を募集したところ、都会の学生が多数参加。その中から「田舎移住」する人もたくさん出てきました。

「これまで地方は、国からいくら金を引っ張ってくるか、ということばかりを考えてきた。しかし、これからは日本も世界も変わらなあかんと思う。『何か新しいものをつくらなければ…』と無機物をどんどんつくってきた。原発がその最たるもの。そして経済は発達してきたのに、一方で貧困が広がっている現実がある。古いもの、前からあるものを使っていつも『最低』で良いのでは?と思う」と語る三枝さんの言葉には、自らの人生と重ね合わせた世界観がずっしりと感じられました。

 今回の「さかい未来づくりサロン現地視察」では、少子高齢化、過疎化の中でも、歴史と自然あふれるまちの魅力を発信し、そこに住み働きながら「持続可能な地域をつくりたい」という思いで、厳しい体制の中でも試行錯誤を重ねる自治体職員がおり、「都会のよそ者」である若者たちが「田舎」でのナリワイと地域づくりに可能性を見出そうと考えつつ、肩肘を張らずに「住んでいる人が楽しく生きられる地域をつくるために、おもしろいことをしよう!」という感覚と柔軟な発想で、自らの経営を通して地域に貢献したり、議会にチャレンジしたりする姿勢、また、そんな若者の生き方に大きな影響を与える「師匠」のような人が地道な活動を持続されているという「つながる」姿に強い印象を受けました。また、「都会」と「田舎」の世代を超えた人的な交流や、「なりわいづくり」や支え合いに、これからの日本の「あるべき姿」の縮図を見たような気がしました。

 私たちが住み働くまち「堺市」でも大阪でも、さまざまな課題がありますが、行き過ぎた経済至上主義、「上から目線」の不毛な統治機構改革論議と対立から「卒業」し、地域を愛し、地域でくらし、地域で働く人たちがつながりながら支え合う「やさしいまちづくり」が求められていると思います。

T・T氏

 私が視察で訪れた新宮市は、和歌山県の東端に位置し、人口が約3万人の都市である。現在の新宮市は平成17年に、熊野川町と新宮市の合併により発足した。人口の分布は、ほとんどが旧新宮市にかたよっている。

 今回の視察1日目の予定は、まず九重という土地にある「BookCafeKuju」に行き、昼食。次にアーティストインレジデンスとして改装中の「小口農協」を訪れ、ゲストハウスとして改装中の「中村邸」を見学した後、宿泊予定の「共育学舎」に向かうというものだ。

「BookCafeKuju」では、僻地にも関わらず、車で多くのお客様が訪れていた。販売している本の品ぞろえは京都の「ガケ書房(現 ホホホ座)」が担当しており、他の書店ではたいてい大手出版社の本を多く並べるところだが、それとは違った珍しい本の品ぞろえになっていた。同じ敷地にパン屋さんもあり、12時の開店と同時にお客様で溢れ、パンはすぐに売り切れとなってしまう。昼食をいただきながら、「BookCafeKuju」を立ち上げた柴田哲弥さんにお話を聞いた。 立ち上げの準備は、役所との調整を喧々諤々し、苦労したとのことだった。

 アーティストインレジデンスを始めようとしている建物「小口農協」を訪れた。アーティストインレジデンスで問題となるのが近隣住民との関係性や、創作活動における騒音の問題があるが、その問題にどうやって取り組んでいるのか気になっていた。訪れてみると、「小口農協」の前には商店があり、店主に話を聞くと、アーティストインレジデンスで若者が訪れることに対し、前向きで歓迎している雰囲気だった。こうした受け皿があることがIターン者を支えているのかもしれない。

 熊野古道からも近い位置にあり、外国人訪問客も増えているそうだが、熊野川町には民宿が2件しかなく供給が追い付いていないそうだ。せっかく予約客がいても、満員で断らなければならない現状がある。そのような状況からゲストハウスとして改装中の「中村邸」には期待が寄せられている。

「共育学舎」では主宰の三枝さんからは、現代に生きる若者に足りないことや、「共育学舎」に訪れる若者の変化など、様々な話を聞くことができた。特に気になったのが、訪れる若者の変化で、今、「共育学舎」に訪れる若者の動機は、ここに来れば何かができる気がするといったような、いわゆる青い鳥症候群のような思いで訪れる若者が多いそうだ。

 二日目に訪れたのは「熊野川町役場」と「かあちゃんの店」だ。「熊野川町役場」では市職員と、Iターン者の方からお話を聞くことができた。話の冒頭は熊野川の氾濫による悲惨な被害状況を伺った。

 次にIターン者の方からは、なぜ、熊野川町にIターン者が多いかということを聞いた。1つはIターン者に対しての補助金が申請しやすいこと。もう1つは「共育学舎」を核にすでにモデルケースとなるようなIターン者がいることがいえると思う。