堺市職労(堺市職員労働組合)ブログ

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新宮視察を振り返って③

(1月22日付)

Y・T氏

 昨年10月25日から26日にかけて、和歌山県新宮市熊野川町を訪れ、地域づくりの現場を視察してきた。熊野川町は、過疎化、少子高齢化が深刻な問題になっている地域であるが、そうした問題の解決をめざした活動が進んでおり、今回はその現場で実際の取り組みを学ぶことができた。中でも一番印象に残っているのが、宿泊場所の「共育学舎」の代表である三枝さんのお話である。

 今回の視察の宿泊場所だった「共育学舎」では、廃校を活用して自給自足の共同生活を営んでいる。代表の三枝さんは、「何のために生きるのか」という疑問を抱き続け、40歳のときに人付き合いを絶って、電気も水道もない小屋で10年間暮らしていたという。「生き方」にこだわりを持つ三枝さんは「何のために生きるのか」という疑問の答えを聞いた私たちに対して、「目的なんてなくても、ただ生きていればいい。社会が決めたレールから外れたとしても生きていける。勝ち組、負け組で区別するのではなく、もっと多様な生き方があっていい」と話していたことが今も心に残っている。また、三枝さんの話の中で、多様な生き方を実践した1人として、堺出身の河口慧海の名前が挙がった。河口慧海鎖国状態にあったチベットへ、日本人であることを隠して入国し、多くの仏典を日本に持ち帰ったという。海外渡航が一般的ではない時代に、他の人たちとは違う人生を選んだ人物が存在したことに驚きを感じた。

 そして、この共育学舎に以前住んでいた人たちがまちづくりの新たな取り組みを始めている。その1つが、今回訪れた「BookCafeKuju」である。「BookCafeKuju」は、廃校となった小学校を改修して、本屋とカフェ、パン屋を営んでいる。この小学校は4年前の台風で浸水の被害を受け、取り壊しが決定されていた。しかし、「BookCafeKuju」の店主である柴田さんが、学校を再利用したほうが地域のためになる考え、行政に働きかけたことによって、取り壊しは撤回された。柴田さんは熊野川町の出身ではなく、いわゆる「よそ者」であったが、カフェをオープンさせるにあたって、地元住民との間で話し合いを重ね、徐々に信頼関係を築いていったという。外からやってきた「よそ者」が地元住民を無視して、自分たちのやりたいことをやっているだけでは地域づくりとしては失敗に終わるだろう。「BookCafeKuju」に滞在したのは1時間半ほどであったが、「BookCafeKuju」が観光客だけでなく、地元客も訪れて賑わっているのは、地元住民との対話を重ねた地道な努力の結果であると感じた。外からやってくる「よそ者」が地元住民と信頼関係を築くことは容易なことではない。しかし、柴田さんは地方で働く魅力について、「若者が少ないため、頼りにされる。自分自身の果たせる役割が大きい」と語っていた。地方には仕事がない、と漠然と考えていたが、その考え方を改めさせられた。都会で働くだけがすべてではない。今後の働き方、生き方を考えさせられた2日間だった。

T・M氏

 今回の視察は、行く前はあまり乗り気ではありませんでした…と言ってしまうと多方面から非難を受けてしまうかもしれません。というのは、新宮市や今回お邪魔した熊野川町の位置はだいたい分かっても、僕自身が不勉強なこともあって「まちづくり」としてどのような取り組みが行われているのかを全く知らなかったためです。

 一昨年は島根県海士町への視察でした。海士町はまちづくりの先進事例として有名で、その後も何度かメディアで取り上げられるほどですから、視察前はワクワクしました。

 僕が新宮市熊野川町で知っていることといえば、世界遺産熊野古道と、2011年の台風12号による大水害で大きな被害を受けた地域だということ。水害のことは、堺市からも何人か応援に行っていたということで知っていました。事前に情報を得ずに視察に行くというのも失礼な話ですが、その方がかえって先入観も無く、新鮮な眼で見ることができるのではないかと肯定的に捕らえて、現地へお邪魔することとしました。

 まずは山あいの廃校をリノベーションした「BookCafeKuju」にお邪魔しました。さきの大水害の際に水に浸かり行政が取り壊しを決めていた廃校舎をリノベーションし、本屋・パン屋・カフェとして2年前にオープン。当初は観光客を見越していましたが、事前の想定に反して地元の1時間圏内のお客さんが来ているとのことです。新宮市と使用貸借契約を交わしており、家賃はかかっていないとのこと。また、全体の売上は約500万円で、運営にあたっての補助金などは使っていません。本もあえてTSUTAYAなどのまちの書店にあるものは置いておらず、「ここにわざわざ来て買う」ものを揃えているそうです。運営されている方も30代前半の若い方で、とても魅力的な取り組みと空間でした。このカフェが出来た効果か、周辺で古民家を使ったゲストハウスや、アロマエッセンスを作る施設、アーティスト・イン・レジデンス(芸術活動を行う人が滞在しながら作品制作を行う事業)を行う施設など、意図せず波及効果があるとのことでした。

 次にお邪魔した「共育学舎」も同じく廃校舎ですが、こちらはほとんど何も手を加えていないところに三枝さん一家(ご夫婦とお子さん)で暮らしています。そして、若者に無償で寝るところや食べ物を提供し、農業体験などを通じて「生きる力」を学ぶことができるのがこの「共育学舎」です。この三枝さんがとても面白い方で、一遍に虜になってしまいました。日本人で初めてチベットに入国した河口慧海が堺出身であると紹介すると、「これからは皆が皆同じ生き方をする必要はない。名誉や地位などを求めず、自分の信念のままに行動した慧海のような生き方もあっても良いのではないか」とのことでした。これには大いに共感し、視察後に河口慧海の「チベット旅行記」を読み始めたのはいうまでもありません(笑)。この共育学舎の三枝さんにお世話になった方々がIターン者や地域おこし協力隊として活躍しており、まさに共育学舎が巣立ちの場となっているということは驚きました。「最低を維持するために最高の努力をする」とおっしゃる三枝さんの取り組みは決して派手ではないものの、取り組みを継続することで確実に成果が出ているところに単純に敬服しました。

 その他、これから新たに取り組みを開始する小口集落への視察や熊野本宮大社への参拝などもありましたが割愛し、最後に新宮市役所熊野川行政局の方々へのヒアリングとなりました。地域おこし協力隊の方も熊野川行政局で働いており、遊休不動産の活用の検討を行っているとのこと。協力隊の方や行政の方々もかなりの思いをお持ちで、フリートークは熱い議論となりました。課題も色々あるものの、「とにかく出来ることをどんどんやる」というスタンスは、自分にも省みて非常に心強い知見を得たような気がします。

 今回お邪魔した新宮市熊野川町は、試行錯誤しながらも真剣に多くの人が地域の今や未来を考えている、まさにまちづくりの最前線でした。そして、派手さを求めるのではなく、大切な取り組みをコツコツと地道に、しかし、確実に継続して行うことが、地域に生きる者としては必要なのではないかと改めて感じたのでした。

 今回も視察という貴重な場を提供していただいた皆さま、アテンドしていただいた並河さんをはじめ、新宮市熊野川町の皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました。