堺市職労(堺市職員労働組合)ブログ

堺市職労(堺市職員労働組合)ブログです。

新宮視察を振り返って④

(1月25日付)

T・T氏

はじめに

 平成27年10月25、26日の二日間、さかい未来づくりサロンから新宮市に地域づくりの視察に行きました。新宮市は、和歌山県の南東部、熊野川の河口西側に位置し、熊野川舟運を利用した木材の集散地として熊野地方の中心的な都市として発展してきました。また、古くから熊野詣の目的地として熊野三山の一社に数えられる熊野速玉大社(熊野速玉大神及び熊野夫須美大神を祀る)があり、熊野信仰源流の聖域とも言われています。今回の視察において、実際に新宮市役所の職員の方とお話しさせていただいたり、観光資源を訪れたことによって考察した新宮市における世界遺産熊野古道を中心とした文化・観光施策について、本レポートにおいて報告します。

新宮市熊野古道

 新宮市は、平成17年に和歌山県の東南端、熊野川流域に位置した熊野川町と合併し、新「新宮市」が発足しました。熊野川町は、面積の95.4%を山林が占めており、豊かな自然が残されています。特産品としては、もともと山仕事の弁当で大きな握り飯を高菜で巻いた「めはりずし」や、熊野川などでとれるアユなどを塩抜きし、柔らかく炊いたご飯にのせ発酵させた「なれずし」などがあります。

 熊野川町には、小口という集落があります。ここは、熊野古道の中でも最も主要なルートの一つと言われ、古道の雰囲気を色濃く残すコースとして知られる大雲取越え小雲取越えの中間に位置しています。大雲取越え小雲取越えコースは、熊野那智大社を起点に二日間かけて熊野本宮に至るコースで、那智勝浦内あるいは那智山内の宿坊に前泊し、翌朝から大雲取越えを越えて夕方までに小口に到着し、二日目は、小口から歩き始めて小雲取越えを越えて熊野本宮へと向かう全長約30㎞のコースとなっています。平成16年に熊野古道世界文化遺産に登録されたことや、その名の通り雲の中を行くような険しい峠道ながら眺望も良いので、近年のトレッキングブームとも相まって訪れる旅行者の人気も高まってきています。また、海外からの旅行者も年々増えてきている傾向があるとのことです。

新宮市の施策

 歌人西行が小口を詠った和歌が山家集に収められているとおり、過去も現在も小口は、熊野詣において重要な中継地点となっていますが、現在、小口には宿泊施設が二施設しかありません。一つは、かつて中学校だった校舎を改装した「小口自然の家」、もう一つは、民宿の「百福」です。旅行者が多いシーズン等は、この二施設では対応できないため、熊野那智大社から小口まで歩き、小口バス停からバスに乗り、新宮市街まで戻って宿泊し、次の日また、バスに乗って小口から歩き始めることになってしまいます。これは、大雲取越え小雲取越えを歩く旅行者にとって非常に不便な状況です。そこで、小口集落では、中村邸という築200年の古民家を改修し、ゲストハウスとしてオープンさせるなど、少しずつ小口にも宿泊施設を増やしていき、旅行者のニーズに応えようとしています。このように新宮市では、今後も地域おこし協力隊(地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図ることで、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度)等を活用し、様々な施策を行っていくことを検討しています。

まとめ

 新宮市は、徐々に熊野古道の魅力を活用して観光の推進を行っていますが、このような新宮市の取り組みが一過性のブームになることがないよう施設等の充実だけでなく、新宮市の素晴らしい自然や深い歴史・文化を活用していくことが必要であると考えます。

 新宮市の住民が自分たちの地元にある自然や歴史・文化への活用について、理解を深め、行政と信頼関係を構築する中で、旅行者のニーズに応えられるような施策がさらなる観光の推進につながるのではないかと考えます。

K・N氏

 一昨年の海士町に続き、今回は新宮市を訪問させていただきましたが、今回も前回同様、まさに「地域づくりの原点を見た」内容であったように思います。

 特に今回の視察のエッセンスは、「①地域づくりの人材育成」「②地域資源を用いた産業づくり」「③遊休ストックの活用」といった点であったと思いますが、その中でも特に私が感銘を受けたのは「①地域づくりの人材育成」です。

 今回の視察で宿泊・交流をさせて頂いた共育学舎には、友人が活動拠点としていた経緯から、以前にも何度か訪れたことがありますが、まさにこの場所が地域づくり人材のインキュベータとしての機能を果たし、人材が輩出され、彼らがここで学んだことを基礎にそれぞれ活動を行い、各集落や市政を巻き込むような実績を作っている。ここに至る過程は決して平たんではなく、4年前の台風被害等も踏まえ、多くの苦労があったかと思いますが、地道に積み上げることで一つ一つ形にしていった事例、そして成長した数多くの人材を見ることができました。

 次に、「②地域資源を用いた産業づくり」については、BookCafeKujuやむぎとしのパンの取り組みが示唆的でしたが、いわゆる6次産業を高レベルで行う(パン用の小麦生産から自ら行っている等)ことにより、遠く離れた場所からもわざわざ人が訪れたくなる、そんな魅力的な場所になっていました。彼らの素晴らしいところは、ふつうであれば、Facebook等のソーシャルメディアを使って広く宣伝してお客を集めたり、お客が増えれば、週の開店日数を増やして利益を上げることなどをめざしがちですが、いずれの戦略も取らず、正攻法の逆張りで商売と生活を回していることでした。このあたりにも、地に足をつけて一つ一つ実績を積み上げる姿勢が垣間見られました。

 最後に「③遊休ストックの活用」については、地域の高齢化が進む中で空家や廃校となった場所を自らの力でリノベーションして使っていく、という動きが各集落で少しずつ広がっていると同時に、地域おこし協力隊として現場に入っている方もそれを広げていくような動きを模索しているということで、コンテンツの充実とともに、今後の展開が非常に楽しみだと感じました。

 上記の点は、何も新宮市や中山間村地域だけの問題や政策的テーマではなく、私が仕事をしている泉北ニュータウンの再生の仕事においてもまさに重要なテーマとして考え、試行錯誤しながら実践している内容であるため、自らの実践に対しても様々な示唆をいただくことができました。

 ある人が「田舎の実状は都市の未来」ということを言っていましたが、堺市内でも突出して高齢化が進むニュータウンを対象エリアに日々仕事をしていると、こうした地方の地域での小さなトライアルこそが、先進事例として、都市部のこれからの地域のあり方や人々のライフスタイルなどを考えるうえで参考にすべき時代になっているように強く感じます。

 今回の視察においては、ご多忙の中、受け入れをしてくださった共育学舎の三枝さんをはじめとした皆様、誠にありがとうございました。今回の経験を自身の業務に活かしていけるよう、これから取り組んでいきたいと思います。