堺市職労(堺市職員労働組合)ブログ

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新宮視察を振り返って①

(1月20日付)

 昨年、本紙にて募集し、堺市職労から11名で視察に臨んだ和歌山県新宮市熊野川町。

 堺市職労の自治研活動の要である「さかい未来づくりサロン」の一環として、まちづくりの先進事例を学んできました。

 遅くなりましたが、各名からの報告書を掲載していきます。

M・T氏

 2014年から開始した「さかい未来づくりサロン」と並行して開始した「まちづくり視察」。今回は昨年10月24~25日の1泊2日で、和歌山県新宮市熊野川町へ。若手組合員8名とベテラン組合員3名の編成。現地でのプログラムやアテンドは新宮市議会議員の並河哲次さんにご協力いただきました。

 新宮市は人口約30000人。熊野川町は人口約1500人で、2005年に新宮市と合併しました。しかし、若年人口の減少、過疎化などが深刻な問題となっており、更には2011年の台風12号直撃による熊野川の氾濫、それによる土砂災害や浸水、流出などで甚大な被害を受けたことに代表されるように、防災が大きな課題となっています。そんな中、総務省補助事業「地域おこし協力隊」を活用したIターン誘導施策や、遊休ストックのリノベーションによる活用など、積極的な取り組みをされていると聞き、都市部においても大いに参考にできることがあるだろうということで、視察先に選定させていただきました。現地の方々もおっしゃっていましたが、熊野川町はまだまだ、まちづくりのモデルケースとは言えず、失敗あり成功ありの試行段階だそうです。だからこそ、今見ておきたいリアルな状況やお話を伺うことができました。

 1日目、まずは「ブックカフェ・クジュウ」を訪問。廃校となった小学校をリノベーションし、新刊書店やカフェ、パン屋が併設されています。書店とカフェを営まれている柴田哲弥さんはIターンです。2011年の台風災害で小学校が水没し、取り壊しが決定したのを聞いて、「これだけの施設を大金かけて取り壊すのはもったいない」と考え、行政に直談判。取り壊し費用を逆にリノベーション費用にあて、2013年から営業を開始しました。賃料は無料ですが、それ以外は全て自給自足、自営です。知る人ぞ知る京都市サブカル書店ガケ書房に選書を依頼することで、僻地なのにマニアックなセレクトという意外性と、新宮市街のツタヤと差別化を図っています。当初のターゲティングは市外からでしたが、実際に営業してみると、ファミリー層など、市内からのニーズが高く、客層の中心は市内からで、最近やっと市外からの客層も増えてきたとのことでした。その要因として、プロモーションに使用した地元紙の影響が大きかったと語ります。住民は全国紙よりもお悔やみ欄を確認するために地元紙を見るのだそう。また、昔から「新宮人は新物食い」と言われており、そういった気質が作用しているのではないかと分析されていました(サブウェイが日本に進出してきた際、新宮市は全国1位の売り上げだった)。

 柴田さんは地域おこし協力隊ではありませんが、元地域おこし協力隊の方が農業を営んでおり、そこの野菜をカフェで使用するなど、Iターン同士の連携があります(並河さんもIターン)。新宮市の地域おこし協力隊は、Iターンを募集し、年間約150万円の補助金を出しながら、3年間で地域協力活動を行ってもらい、起業や定住を支援する施策です。しかし、ほとんどが2年程度で帰っていくそうです。

 先日、テレビ番組で全国の地域おこし協力隊が特集されており、その実態が一側面ですが、語られていました。憧れで応募するが現実は甘くなく挫折する人。サラリーマンが嫌だから応募した人。意欲があったとしても任期満了までに起業できなかった人。任期満了前に辞めて起業した人は、任期中、何をやるにも行政の承認がいることで遅延になったり、「他と不公平ができるから駄目」と承認がおりなかったりと、行政との関係が障害になっていたと語っていました。また、逆に行政の協力がなく、宙ぶらりん状態だったという人も。

 柴田さんは「まちづくりと言っても継続しないことが多い。まずは続けていくこと、そこに住む人が営んでいける環境づくりが大事」と語ります。また、「同様の店ができてきたが、そもそも、新しい店ができることがなかった環境に影響を与えることができた。地域の野菜陳列にも整理して売るという影響を与えることができた(笑)」と語ります。

 続いて、リノベーションしてアーティスト・イン・レジデンス(アーティストを招聘し、そこで作品の制作やリサーチを行ってもらうこと。招聘する側の行政や地域にとっては、制作過程におけるアーティストとの交流や地域の魅力再発見といったメリットがある。地域文化振興での効果も期待されている)にする予定の元農協施設や、リノベーションしてゲストハウスにする予定の築200年の古民家を訪問。施設の屋上から町を一望すると、そこかしこに遊休ストックが。これらを負の遺産とするのか資源とするのかは捉え方次第だと感じました。

 近年、海外からの観光需要が高まっており、世界遺産である熊野古道や古民家群を有する熊野川町では、特にヨーロッパからの観光客が激増しているそうです。しかし、担い手不足や受入体制が追いついておらず、地域の方々からも、観光客が宿泊施設や飲食店を探していても案内できずに心苦しい、もったいないという声がありました。

 2日目、「新宮市熊野川行政局」を訪問。担当者2名と地域おこし協力隊の方にご対応いただきました。Iターン誘導施策としては、地域おこし協力隊の他、起業や定住に対する和歌山県からの補助金を活用しているとのこと。地域おこし協力隊については「多種多様な方々から応募があり、当初は自由度を高めて運用していたが、逆に宙ぶらりん状態となったり、住民と揉めることもあった。試行錯誤を繰り返し、現在は庁舎内に拠点を置いて活動してもらうことで、逐一相談にも乗れるし、住民からも顔が見えるので相互理解が深まった。現在、起業の目途が立っているのが6名程。カフェや不動産屋、アロマ化粧品店など。2011年の台風災害以降、何とか町を活性化したいという住民が増えた。Iターンのニーズを汲み取りつつ、今ある物を活かした、おもしろいまちづくりを目ざしたい」とのことでした。しかし、2005年の合併以降、熊野川行政局の職員数が50名から12名に削減され、遠方の住民訪問(熊野川町は広域に集落が点在している)、除草や鳥獣被害対策などの町内整備、防災、福祉などの住民サービスは低下しているとのことでした。

 最後に、地域おこし協力隊の方に熊野川町をIターンの地に選定したきっかけを尋ねたところ、「学生時代、共育学舎(今回の視察で宿泊した施設)主催の農業体験ワークショップに参加して」とのことでした。ふと思い出すと、前回の視察先であった島根県隠岐海士町でも「海士ワゴン」という学生を中心としたIターン予備軍育成事業に積極的に取り組み、成果を上げていました。思うに、今すぐIターンを求めることと並行しつつ、長い目でIターン予備軍を育成することに注力することが重要ではないでしょうか。そして、もう一つ重要なのが、IターンやIターン予備軍が集う拠点を作ること。そういう意味で熊野川町では、共育学舎を拠点として、並河さんや柴田さんなどのIターンが活動し、ブックカフェ・クジュウを作りました。そして、ブックカフェ・クジュウを拠点として、Iターンが活動し、新たな拠点を作っています。拠点を作ることによって、IターンがIターンを呼ぶ流れができているのだと感じました。