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新連載・ワンコインの名作

(第1回) リルケ『若き詩人への手紙』【5月22日付】

 「あなたの孤独を愛してください」

 リルケ筆まめな人で、膨大な書簡をのこしている。それも単に数が多いというだけでなく、彼の文学全体において重要な位置を占めるという点で特徴的なものだ。

 『若き詩人への手紙』は、リルケと詩人志望の若者との間で交わされた往復書簡のうち、リルケが送った十通の手紙を集めたものである。ふたりの文通は、一九〇三年から〇八年まで足かけ六年に及んだ。その間、リルケはパリに出てロダンに師事し、さらにヨーロッパ各地を旅し、詩作や小説『マルテの手記』の執筆をしている。二十代後半から三十代前半に当たる時期だ。

この一連の書簡において、リルケは、若者が投げかける、芸術、職業、孤独、恋愛などの悩みに対して、共感と理解を示しつつ、安直な励ましを避け、厳しくも誠実な返答をしている。冒頭に掲げた一節や「あなたの内部に起こる出来事はあなたの全幅の愛に値します」といったメッセージは、自分の内面を徹底的に掘り下げ、孤独の苦痛を実りあるものとして詩作に結晶したリルケならではの言葉といえる。職業についても、それが人間を疎外することを認めながら、内面への沈潜によって我々自身に立ち返ることが大事だと説いている。

 こうしたリルケの温かい助言は、自らの苦悩にまじめに向き合うことの大切さを教えてくれる。それは、一個人宛の手紙という枠にとどまらず、同じような悩みを抱えたことのある誰にとっても今を生きる糧となるだろう。また、詩人としての心構えについても書かれており、リルケの芸術観を理解する上でも意義深い一冊だ。

(『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』新潮文庫、三七〇円+税(電子版あり))

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