残業代ゼロ法案再浮上
(5月20日付)
残業代をゼロにするという、働く人にとってなんとも過酷な法案が再び浮上しています。第一次安倍政権時に世間の批判を浴びてお蔵入りしたいわくつきの法案の焼き直しです。政府の産業競争力会議と経済財政諮問会議の合同会議で、1日8時間労働制をなし崩しにする「新労働時間制度」が示されました。その狙いの根底には、「もっともっと働け」という一部経営者の身勝手な要求がありそうです。
●過労死も自己責任に
提言の狙いは、働いた時間と給与を切り離すことにあります。当然、「残業」という概念はなくなり、24時間働かせても残業代はゼロです。
労働時間規制を弱めることがなぜ経済成長につながるのか。企業社会論が専門の森岡孝二・関西大学名誉教授はこう疑問を呈したうえで、「『労働生産性の向上』がしきりに強調されているところから考えると、『少ない人数で長時間働いて生産性を上げろ』と言っているようにも聞こえる。だとすればそれは『労働者をもっと搾らなければ、日本経済の成長はありえない』と言っているも同然。本来労働行政が関わるべき政策を経済産業省が主導することでボタンの掛け違えが起きている」と指摘します。
企業は労働時間を管理する義務がなくなるため、働かせ過ぎによる健康被害も社員の自己責任とされかねません。大手居酒屋チェーン「ワタミ」のように社員を過労自殺に追い込んだ企業も責任が問われなくなってしまいます。
今回は「労使合意」と本人同意らしきものを導入の条件にしていますが、この「労使合意」も安心できません。残業を認める労使の36(さぶろく)協定の多くがほぼ青天井。多くの労組がブレーキ役を果たしえていないのが残念ながら日本の現状です。