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イノベーション中年⑮ あさのあつこ×中年

6月19日付

「そうだ、本気になれよ。本気で向かってこい。子どもだとか小学生だとか中学生だとか、関係ないこと全部捨てて、おれの球だけを見ろよ」
 作家のあさのあつこさんが若い世代に講義をする番組をみました。
 あさのさんの作品「バッテリー」は、中学進学前に、父の転勤で岡山の山間、新田市に引っ越した天才ピッチャー原田巧がキャッチャー永倉豪と出会った1年間を描いた小説。
 冒頭は、巧が元球児の大人と対戦した際、心の中で吐くセリフ。野球に向き合い、努力を重ね、それゆえ強烈な自負を持つ巧。その自信ゆえに両親、先輩、教師、同級生、弟の青波や豪など周囲と衝突を繰り返します。
 それぞれの中学生が屈折や葛藤を抱え、僕の期待する一直線の成長物語や友情物語とはなりません。周囲と自分を比べ、周囲に合わせようと腐心してきた自分の中学校時代との違いにハッとしました。
 番組であさのさんは「今の時代、簡単に希望を語るのは陳腐に思えますが、同時に簡単に語られる絶望なんて絶対にない。みなさん一人一人が個人として抱えている絶望をそれぞれの言葉で書いてほしい。書くことで自分の根っこができます。ちまたにあふれているよく分からない絶望の物語や価値観に巻き込まれないで欲しい」と強調されました。
 作家を志望し東京の大学に進学したが、その夢を果たせず、故郷に戻って結婚、出産育児ののちに作家デビューしたあさのさん。現在も岡山の山間で暮らしながら、作品を生み出し続けています。「いまだにこの国を支配している『成長していく、大きくなっていく』という価値観と違うところで、国をつくっていって欲しい」と若い方にエールを送られました。
 その言葉を聞きながら、きっとあさのさんの中にも原田巧が息づいているのだろうと感じたのでした。