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ワンコインの名作 スウィフト「ガリバー旅行記」

4月26日付

「この気高いフウイヌムたちは、あらゆる美徳を生まれつき身につけているので、どうして理性的生物に悪があるのか理解も想像もできないのだ」
 
 ガリバーというと巨人をイメージしがちだが、もちろん、これは、小説の中で彼が小人国を旅したためで、次に旅した大人国では逆にこびととして遇される。『ガリバー旅行記』のおもしろさは、この第一篇「小人国」と第二篇「大人国」の冒険譚にあり、そのため、児童向けの読物では、この二篇のみ収録していることが多い。しかし、同書が風刺文学の傑作たるゆえんは、むしろ、これらに続く第三篇「空飛ぶ島」と第四篇「馬の国」にある。

 とりわけ第四篇は、理性的生物である馬(フウイヌム)と最下等の醜悪な生物である人間(ヤフー)が存在する国を舞台とし、作者スウィフトの人間不信が徹底的に吐露される。ガリバーが説明する人間社会の様々な事象について、理性的存在であるフウイヌムには理解できない。冒頭に引用したように、彼らには「悪」の概念がない。だから望ましくないものをあらわすのに「ヤフー」という言葉で代用する。欲望や感情の種類も人間ほど多くない。彼らのモットーは、ただひとつ、「理性に従え」である。ガリバーは、とうとう「この国の住民をすっかり敬愛するようになり、もう二度と人間世界へは帰るまい」と思うにいたる(しかし、最後はイギリスに帰国する)。
 
 スウィフトは、十七世紀後半から十八世紀前半の英国に生きた。野心もあったが、望みはかなわず、失意のうちに故郷アイルランドに帰り、政権のアイルランド統治を批判する文書を次々と出す。そのような中、五十九歳のときに出版した彼の最高傑作がこの『ガリバー旅行記』である。
 
(『ガリバー旅行記新潮文庫、角川文庫ほか)