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ワンコインの名作 第2回

シュリーマン『古代への情熱』(6月21日付)

トロイアは必ずあるという信念は、私の人生のどんなに不幸なときにも、ただの一度も私を見捨てなかった」

 トロイア遺跡を発掘したシュリーマンほど毀誉褒貶の激しい人物はめずらしい。とくに近年は、彼の発掘方法に対する考古学的な批判のみならず、虚言癖や自己顕示欲といった人格面に対する批判も強まっている。

 にもかかわらず、彼の自伝『古代への情熱』がその価値を失わないのは、冒頭のような信念の持続や物事をやり抜く意志、飽くことを知らないチャレンジ精神などに読む者が感銘を受けるからだろう。

 ところで、この本は厳密には「自伝」ではない。実際にシュリーマン自身が書いたのは第一章「少年時代と商人時代」のみで、それ以外は、シュリーマンの死後、彼の別の著書からの引用を踏まえつつ、数々の発掘の業績について別人が書き足したものだ。彼の筆による第一章では、トロイア戦争を事実と信じた幼少期のエピソードや初恋の話、商人として財をなしたサクセスストーリーなど発掘に取り組むまでの前半生について語られている。

 とりわけ読者の興味をそそるのは、シュリーマン流語学修得法だろう。シュリーマンは語学の達人で十数カ国語を操った。彼は、文法の習熟から入る学校教育を否定し、語学の極意をおよそ次のようにまとめている。(一)音読する、(二)訳さない、(三)毎日一時間勉強する、(四)関心のあることについて作文し、添削を受ける、(五)暗唱する。こうした方法は、とくに「話す」「書く」という発信型の技能を養うのに適している。英語教育が「聞く」「読む」の受信型中心から四技能のバランスへと移行しつつある今日、シュリーマンのやり方は、その長短も含めて改めて振り返られるべきものだろう。

(『古代への情熱』新潮文庫、四九〇円+税(他に岩波文庫で紙・電子版あり))