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ワンコインの名作 ディケンズ『クリスマス・キャロル』

12月24日付 

 「私は心からクリスマスを尊び、一年中その気持ちを忘れません。私は過去、現在、未来の教えの中に生きます」

 ディケンズは、父の破産のため、十二歳から、産業革命の進展するロンドンで職工その他の職業に従事した。工業化による急速な社会の変化を実体験したことは、後に小説家となってからの作品に大きく生かされることになる。実際、彼の代表作のひとつ『クリスマス・キャロル』でも、貧困や犯罪、人口急増といった当時の社会問題を読みとることができる。
 この小説は、一八四三年、すでに流行作家となっていたディケンズが31歳のときに書いたものだ。冷酷でけちな老商人スクルージが、クリスマスイブに亡霊や精霊と出会い、その導きによって、過去・現在・未来の自分と向きあう。これまでの生き方を悔いた彼は、慈悲深い人間へと生まれかわるというあらすじ。
 冒頭に掲げた一節は、主人公が改心を誓ったセリフで、ここに示されるように、ディケンズは慈愛や感謝、寛大といった「クリスマスの精神」を大切に考えていた。それと、どんな人間も再生できるというメッセージ。物語の結末では、スクルージの改心の結果、病気で死ぬはずであった彼の書記の子どもの運命までも変わっていく。
 Dickensianという英単語があり、文字通りには「ディケンズ風の」という意味だが、「生活条件が貧しい」といったニュアンスを含むことがある。それほど、ディケンズ作品には庶民の生活が哀歓とともに描かれる。『クリスマス・キャロル』が今日まで読み継がれる理由のひとつも、ストーリーの妙に加えて、貧しき者へのあたたかいまなざしというディケンズの特質が遺憾なく発揮されていることにある。
(『クリスマス・キャロル新潮文庫、角川文庫、集英社文庫ほか)