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ワンコインの名作 第5回

方法序説デカルト(9月13日付)

「私自身のうちに、あるいは世間という大きな書物のうちに見つかるかもしれない学問だけを探求しようと決心した」

 デカルトの『方法序説』といえば哲学の古典であるが、現代人にとっても参考になるところの多い、小著ながら読みどころ満載の一冊である。

 そもそも、なぜ「方法序説」というのか。デカルトは、一六三七年、四十一歳のときに屈折光学、気象学、幾何学の三つの論文を発表した。その際、それらの序文として、自分の学問研究の方法を最後にまとめた。それが後に『方法序説』という独立した書物となったのである。

 この本は「良識はこの世でもっとも公平に分け与えられているものである」という有名な書き出しではじまる。真偽を区別する能力は万人に生まれつき平等に備わっているとデカルトは言う。にもかかわらず私たちの意見が分かれるのは思考の道筋が異なるからである。そこで理性を正しく導く方法がテーマとなる。デカルト自身がつくりあげたその方法を披露するために、彼はそれまでの人生を振り返る。

 デカルトは学校の勉強を終えると、机上の学問に見切りをつける。そして、冒頭のような決心をして、諸国を旅し、見聞を広め、様々な経験を積む。その結果、多くの誤りから解放されたと彼は言う。続いて、自分自身の研究へと全力を傾けるのであるが、ここからが読みどころのオンパレードで、思考の方法としての四規則(明証・分析・総合・枚挙)や「仮の道徳」の議論、いわゆる「方法的懐疑」の末に到達した「われ思う、ゆえにわれあり」の命題、それに継ぐ神の存在証明など、デカルトの強靭な思索が続いていく。

 本書を読むと、デカルトがいかに徹底して考え抜いたかがよく伝わってくる。考えるとはどういうことかを探求するうえで欠かせない不朽の名著である。

(『方法序説岩波文庫、電子版四八〇円(紙五二〇円)+税)