1月10日付裏面
T・H氏
島根県隠岐郡海士町、和歌山県新宮市熊野川町に続いての参加になります。
2日や3日の視察で見届けることのできる範囲は非常に限られていると思いますが、「実際の様子を見ること」「地元の人から直接話を聞くこと」「参加者と寝食をともにすること」に魅力を感じ、3回連続で参加しています。
今回の真庭市は、マネー拡大を追求する社会の対極として、マネーに翻弄されない豊かさを享受しているモデルを紹介した『里山資本主義』(藻谷浩介・NHK広島取材班 角川新書 2013年)の巻頭に取り上げられていて、興味を持ちながらも実際に訪問するまでに至らず、足を踏み出すいい機会でもありました。
視察の1週間前には、NHKの『サキどり』という番組で「木で高層ビル!?ニッポンの山に革命を」と題して、民間事業者としてバイオマス発電(植物などの生物から生まれた再生できる資源)をいち早く取り入れ、現在の「バイオマスタウン真庭」を先導してきた銘建工業のCLT(クロス・ラミネイティッド・ティンバーの略。直交集成板)が取り上げられています。
こうした情報に触れた私の一番の関心事は、地元の人がどの程度、真庭の地域資源を活かした暮らしをされているのかを見ることにありました。にも関わらず、身も蓋もない話ですが、今回は真庭観光連盟が設けている「バイオマスタウン視察コース」という半日ツアーだったため、残念ながら個々の人々の暮らしぶりにまで立ち入るところには及びませんでした。
とは言え、視察を通して、「バイオマス」を真庭市の顔、地域ブランドとして確立されようとしていることは強く伝わってきました。地域ブランドというと、バイオマスの情報発信やプロモーションに力を入れていることをイメージされるかもしれませんが、そうではなく、仕事や雇用、収入(真庭バイオマス集積基地に未利用材を集積すると、有価で買い取り加工され、燃料として販売される)、エネルギーを生み出し(真庭市役所本庁舎には、木材や樹脂を粉砕・圧縮した固形燃料のペレットボイラーが導入され、暖房だけでなく、冷房にも使われている。また、真庭バイオマス発電所の稼働により地元2施設に電気を販売している)、ひいては森林の保全や林業・木材業の維持に繋がっている点に、バイオマスに対する真庭の取組みの真骨頂があるのではないかと、声を大にして報告したいところです。
まさしく、「バイオマス産業杜市」と銘打っている通り、パイロット的な地域資源という枠を突き破って、バイオマスを中心に、人や生活、業、自然が一つの輪で繋がり、循環し、地域産業となり、持続可能な地域社会の展望をも切り開いているところに、真庭の壮大さを改めて感じます。
これが行政主導ではなく、地元の20代から40代の若手経営者が集まって、真庭の豊かな自然と暮らしを未来へ繋ごうと、「21世紀の真庭塾」(真庭の未来を考える会)の活動が主体となってスタートしたというのは意外な驚きでした。
何より、市内の工場などを巡り、バイオマスタウンの取組みや地域づくりを紹介することを宿泊とセットにして、真庭市の真庭観光連盟が「バイオマスツアー真庭」として提供しているところに、したたかさも感じました。
他にも、地元の方々と交わした会話や参加者との交流について思い起こされますが、長くなってしまうので、次回、その土地や人、雰囲気、時間を共有できる参加者が増え、現地視察がますます魅力あるものになるよう願って、結びにしたいと思います。
M・Y氏
この度、堺市職労が主催する「さかい未来づくりサロン」の『真庭視察』に参加させていただきました。真庭市については、以前に読んだ「里山資本主義」(藻谷浩介著)という本にも紹介され、全国的にも環境先進都市として様々な資料等に登場していたことから、常々注目していました。
真庭市は、岡山県北部に位置し、2005年に9町村による合併により誕生した自治体で、総面積は828㎢、人口は47367人(2016年7月1日現在)。そして、森林面積はなんと79%と、森林資源の豊かなまちです。
交通の便もよく、米子自動車道が市を縦断する形で通っており、中国自動車道と岡山自動車道の分岐地点である北房ジャンクション、また5つのインターチェンジを要しています。
視察当日はまず最初に、勝山木材ふれあい会館において、真庭市産業環境局 林業・バイオマス産業課の福島氏から、バイオマスタウン構想をはじめとした真庭市の全体像について説明をお聞きました。同じ自治体職員、また、労働組合の書記次長をされているとのことで、親近感を持ってお話をお伺いしました。
バイオマスタウン構想のそもそもは、高速道路の建設により単なる「通過都市」にならないか、という危惧から、地元の若手経営者や各方面のリーダー20数名が中心となり、1993年に「21世紀の真庭塾」という組織を立ち上げ、そこに行政や産学連携の仕組みが後発的に参画していったこと、当初は「町並み景観保存」(勝山地区)と「循環型地域社会の創造」を主要テーマに未来の真庭について喧々諤々の議論がなされ、その活動は現在のバイオマスタウンの推進力となっているとのことでした。
2013年度現在の同市のバイオマス資源の利用状況は、廃棄物系(家畜排泄物・食品廃棄物・木質系廃材・紙くず・古紙・浄化槽等汚泥、下水汚泥)で92.6%と驚きの数値であり、未利用バイオマス(稲わら・もみ殻・未利用木材・剪定枝)も33.5%から80%へ引き上げる目標とのこと。ちなみに、まちの概要や人口等が全く違うので単純に比較はできないことを前提に言うと、我が堺市では、剪定枝や食品廃棄物の一部を再資源化してはいますが、真庭市のようにバイオマス資源の全体把握やその利活用計画策定は、現在のところ困難な状況で今後の課題となっています。
視察では、製材所から出るかんな屑等を製品(木質ペレット)化したり、自家発電に活用する工場、木質副産物の集積基地、そして、木質バイオマス発電所を見学。ここでは特に、山に残置されたままの未利用材や樹皮等を「有価」で買い取るシステム(当該地域の山主限定)を構築することで、これまで価値のなかったものに価値が生まれ、林業の活性化へと繋がっていること、また、これがさらにバイオマス発電をはじめとしたエネルギー利用を安定的かつ持続可能なものとして発展させていることに、これぞ地域内の経済循環!里山資本主義!と、とても感激しました。
翌日には真庭市役所にも立ち寄り、同市役所内がバイオマス発電により機能している様子が「見える化」されている施設も見学し、市と地元の民間事業者が一体となって取組みを進めていることを目の当たりにすることができました。
ただ、さすがに何もかもがスムーズに進んだわけではないようです。宿泊した旅館の女将さんにお話を伺うと、やはり民間事業者主体でのスタートであることや、この間の9町村による合併により、地域により温度差があるとのことです。そんな中でも、地元の皆さんがいろいろな集まり、例えば「女将の会」などで意見を出し合いながら、まちの未来について熱心に議論している、ということも話していただきました。
今回の視察を通して感じたことは、真庭の「今」を作り、支え続けてきたものは、地域の皆さんの「地元愛」をスタートにした、「住み続けることができ、住み続けたい『まち』」の次世代への継承への強い思いではないかと思います。その思いは私たちのまち「堺」でも同じなのかもしれませんが、ただそれを「思い」だけではなく、当時「21世紀の真庭塾」を立ち上げた皆さんが、「地域資源=山」に着目して共有し、安定した経済活動を構築するという柱を握って離さず、それはそれは一筋縄ではいかなかったでしょうが、個々ではなく集団で、粘り強く、そして、ときには自治体の重い腰を上げさせて、エネルギッシュに活動してこられた賜物として、「今」があるのかな、と感じました。
今まで見向きもされなかったものを、地域循環資源に見事に変貌させ、それを有効活用することで、地域の活性化へ繋げる真庭の取組み。想像力、柔軟性、発想の転換、熱意、連携、夢、仲間…。様々な言葉が頭の中でぐるぐる回る、今回の視察でした。