12月21日付裏面
S・M氏
「さかい未来づくりサロン」真庭市への現地視察に参加した。
この企画、初回から気になっていたが、「未来」=「若者」中心=私のようなロートルは参加資格がないのではと感じてはいたが、「地域資源の利活用とまちづくりを学ぶ」というサブタイトルにも魅かれて手を挙げた。
岡山県真庭市。岡山県の北部に位置し、中国道落合PAなど、5つのPAを置き、鳥取との県境に蒜山高原やら湯原温泉があり豪雪地域だが、どちらかというと通過地点のイメージ。人口45000人、面積828㎢、森林が97%という県で一番面積の広い市、人口密度54.5人/㎢。平成17年に上房郡北房町、真庭郡勝山町、落合町、湯原町、久世町、美甘村、川上村、八束村、中和村という郡まで違うが、ほぼ同じ悩みを持つ5町4村が合併して市政施行。所謂、「平成の大合併」に最後に乗った自治体。合併で市役所機能は、久世地域に集約され、勝山に支局が置かれている。主要産業は林業と石灰鉱業。ご多分に漏れず、林業の衰退により、この20年で人口が4分の3に減ってしまった過疎の地域である。いつものように市のホームページで予習。新しい庁舎、観光情報の横の福祉情報を見ると、次世代育成のところは賑やかだが普通のイメージ。そして、今回テーマのバイオマスの話が続く。
さて、バイオマスのことは皆が書くと思うので省略しよう。そこに集約できる町の規模で、住民中心の実験が続いているのは確かで、それを発信していることがポイントだ。発信力の重要性は参加者の中でも意識されていた。
私がこの旅で見たかったものは何だろうか。
①5町4村の合併10年は住民、そして自治体労働者にとってどんな期間だったかということ。私は20年前の組合専従者の時期に、平成の大合併に異を唱え合併しないことを宣言し結集した首長たちの「小さくても輝くまちフォーラム」に5年ほど連続して参加し、群馬県上野村や岐阜県白川町、宮崎県綾町などを訪ねた。隣と同じことをしていては生き残れない。地産地消、地域内循環を生み出す関わりを作り出し、住民が主体的に生活することをめざし燃えるスーパー首長、スーパー公務員に出会った。しかし10年間やって、自分たちのまちだけ頑張っても、隣町が同じことをやったらやはり皆落ち込んでいく。人口減少社会の中で地域政策そのものを変えなければいけないとフォーラムは違う形になった。また私はこの5年間自治労連社会福祉部会長として、全国いろいろな地域を訪ね、自治体労働者中心にいろいろな方からお話を伺いし、ともに自治労連の社会福祉の運動を考えてきた。元部会幹事の住む愛媛県今治市の12市町村、規模の違うまちの対等合併は大変な混乱を招き、未だに引きずっているという。合併で行政が集約された中での東日本震災をうけた被災地で、家族や自身の生活を顧みず、走り続けている自治体労働者たちの奮闘もたくさん見てきた。どうしても合併に反対と言いがちだが、実際どうなのだろうかということ。数字では、合併の効果はあまり現れていない。旅の初めの勝山木材ふれあい会館でうけた市職員のお話に始まり、バイオマスツアーに関わる方々のお話は、自分のまちをどう維持していくかということに集中していた。合併特例債に頼った箱ものの施設は維持管理費用などで市政を圧迫していくはずだが、規模を守っているとは言い難い施設も目立つ。ただ小さな町では一つの施設の雇用や利用効果は大きく、市政の判断で住民の生活は大きく変化する。そして最も印象的だったこと。宿泊した旅館の若女将さんから聞いた話では、市政に関わる人=地元企業の経営者を中心に若い自治体労働者が加わり、まちづくりを考え実行している人たちは、「どこまでも前向きで、めげない人たちだ」ということだった。商売の維持やら子育ての悩みやら、過疎地域ならではの悩みは尽きないが、皆で考え、実践していくことの意義を、スタッフ以外から聞けたのが新鮮だった。
②に見たかったもの。この企画に応募し、わがまちさかいの未来の姿を考える若者たちの視点。そのまま堺市で実行することにはならないが、課題の発見から、議論そして、結果の導き方、モニタリングから実践、広報普及など学ぶべき点はたくさんあった。そして一晩二日間ではあったが、遅い時間まで飲みながら話した。言葉にすることで発信されていく若い力を感じた。私の場合は組合専従という貴重な期間ももらい、それ以降も多くの経験をさせていただいているが、さかいの次の世代を作るために必要なのは、いろいろな話を聞き地域を見て、自分たちのまちを見るための「ものさし」を作ることだと思う。
ネットで調べた地域情報も行かないと真実はわからない。若者が調べた、蒜山の牛乳を活かした地元の果物屋のジャムが予想外に美味しかったことは食べた人にしかわからないのと同じように。きれいな庁舎も普段から利用してみないとわからないのだから。
ちなみに、当日鳥取県に大きな地震があった。視察中の工場ではツアー客を気遣い、きちんと誘導してくれた。旅館はエレベーターが止まっており、仲居さんの誘導で5階まで階段を上がった。この地域では珍しいことだったらしいが、いい対応だった。
私は年明け定点観測で陸前高田や大船渡に行く予定である。地元の自治体労働者から、介護や医療の問題、自治体のやるべきことを再度確認していくつもりだ。多くの自治体労働者に、外に出る機会を作り出したいと思う。また、このサロンの旅にも職場の若い人を誘っていきたいと思った。
T・K氏
真庭市は、岡山県北部で中国山地のほぼ中央に位置し、平成17年に5町4村が合併し、県下で最大の市となりました。北部は鳥取県に隣接する蒜山高原があり、湯原温泉などの温泉地としても有名です。
市の森林面積が97%を占めており、古くから林業で栄えていましたが、近年のライフスタイルの変化などから全国的にも林業が衰退してきています。
そこで、真庭市では製材の際に生じる端材や木屑などを利用したバイオマス発電に力を注いでおり、その動向について学んできました。
行政の取組み
真庭市役所には、林業・バイオマス産業課という部署があり、バイオマスの推進に積極的に取り組んでいます。バイオマス産業は民が主導となって取り組んでおり、市役所はそれをバックアップしており、バイオマス産業の啓発活動や産官学の連携などを進めています。
木屑を圧縮した筒状のペレットを燃料にしたボイラーなどを公共施設に導入しているのもその取組みの1つです。
市役所の担当の方からお話を伺い、行政が主導してしまうとうまくいかないケースもあると感じました。人事異動などで頻繁に体制が変わる中、熱意のある民間に音頭をとってもらうことで産業活性化が円滑化している現状を目の当たりにしました。
集積場から発電所へ
真庭市の森林は、古くから人が入っていたことから約60%が人工林です。その多くが樹齢40~50年を経過しており、本来切り出されるべきものが山に多く残っています。
それらを伐採する際や切り出して製材する際に出た木屑を有価で買い取り、集積・加工しているのが真庭バイオマス集積基地です。
広大な敷地にはたくさんの木屑が集積されており、僅か30分程度の見学時間の間にも木屑を載せたトラックが何台も入ってきていました。
木屑を買い取るのは事前に契約した人に限定し、市内の方を優先に買い取っているようです。また、木屑の中でも枝葉のようなものは湿気が多く、燃料化するのに効率が悪いため、できれば受け入れを制限したいのが実情ですが、真庭市の林業の発展のために制限せず買い取っているというようなお話も伺いました。
民間主導の事業で、採算よりも市の発展のためにという言葉が出てきたのが、私にとってはとても斬新に思えました。
集積場で加工された木屑は、市や森林共同組合など、10社が出資して誕生した真庭バイオマス発電株式会社に運ばれます。ここでは木屑を燃焼し、それをエネルギーに変え、発電しています。発電したエネルギーは自社だけでなく、電力会社に売って利益を得ており、市役所や公民館などの公共施設にも送られています。
このように真庭市では、市内で出た木屑をエネルギーに変え、地域の活性化に繋げる「エネルギーの地産地消」ができるシステムが確立されており、全国的にもお手本になる取組みだと感じました。
地域愛で成長した
バイオマス産業
今回の視察では、この他にも製材工程で出る木屑を活用し、自社内で発電を行っている銘建工業株式会社などの製材メーカーも見学させてもらい、民間の強い思いに触れることができました。
また、見学した至る場所で「真庭のために利益を真庭に還す」という言葉を耳にしました。過去に視察に訪れた場所でも感じたことですが、新しいことをするときには必ず摩擦が生じる。真庭市は5町4村という異なる地域の合併から、多くの摩擦があったと思います。
それを乗り越え、「真庭市のために」と言えるシステムが築造されていることが、素晴らしいことだと感じました。
大阪で、堺市で、バイオマスではなくてもこのような資源があったとして、上手くまとまるでしょうか。こういった事例を取り入れるにはもっと根本的なところから変えていく必要があると感じました。