9月11日付
「帰ってきたときには我が小婦人たち(リトル・ウィメン)をこれまで以上に愛し誇りに思えますように」
『若草物語』第一部は南北戦争を背景としている。マーチ家の四姉妹をめぐる一年間のこの物語は、父とプレゼントが不在のクリスマスで幕を開ける。父親は牧師として従軍中。プレゼントがないのは、戦時下であることを考慮した母親の提案による。
四姉妹はそれぞれ個性的。長女メグは面倒見がよいが虚栄心が強い。次女ジョーは勝ち気だが短気。三女ベスはやさしいが人見知り。四女エイミーは愛想がよいがわがまま。冒頭引用は戦地の父からの手紙の一節で、ここに示されたLittle Women(「小さいながらも一人前の女性たち」の意で、この小説の原題)をめざして彼女たちは自分の欠点と向き合っていく。描かれるのは、この四人と隣家ローレンス家の少年ローリーを中心とした日々の出来事で、失敗もあるが、彼女たちの母親が姉妹をあたたかく見守り導く。
数々の印象的な場面がある。そのひとつは、物語の後半で、戦場の父が病で倒れたとの電報が入り、母が急ぎ病院に駆けつけようとするところ。旅費を工面するため、ジョーは髪の毛を売る。その晩、彼女はベッドで忍び泣く。父への心配のためではない。美しいと自ら誇っていた髪を失ったことへの悲しみのためである。男の子に生まれなかったことを悔やんでいたジョーが見せる意外な一面で、大胆な行動力と繊細さの両方が強く心に残る。
次のクリスマスに父は生還し、家族は再会を果たす。そして、メグの婚約をもって小説第一部の幕は閉じる。作中、ローリーと四姉妹が将来の夢を語りあい、十年後の自分たちを想像する場面があるが、果たして彼女たちはどうなるのか、物語は第二部へと続く。
(『若草物語』角川文庫、新潮文庫ほか)