6月15日付
ロシアのウクライナ侵略をめぐり、“ロシアは侵略戦争をやめろ”、“ただちにウクライナから撤退を”という思いと同時に、不安の声も聞かれます。平和に生存するためには何が必要なのでしょうか。一緒に考えたいと思います。
軍事力には軍事力
岸田首相は、5月23日の日米首脳会談で、「日本の防衛力を抜本的に強化する」と述べ、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有検討に言及し、軍事費の「相当な増額」を表明しました。核兵器問題では「拡大抑止」の強化が確認されました。
7日に閣議決定した「骨太の方針」では、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」という文言を新たに盛り込みました。原文では注釈にあった北大西洋条約機構(NATO)が軍事費を対国内総生産(GDP)で「2%以上」を目標としているとの記述を本文に書き込みました。
日本で軍事費をGDP比2%に倍増するには約6兆円、消費税の税収にして税率約3%分の財源が必要です。防衛省の予算は今でも農林水産省の2倍以上で文部科学省を上回っています。軍事費が2倍になれば、国土交通省を抜いて、厚生労働省に次ぐ官庁になります。この財源について、岸田首相は『これから考える』として、「骨太の方針」にも書かれていません。
政府の対応の主軸は、「軍事には軍拡で」と考えられます。果たして、「軍事力には軍事力」以外に妥当な選択肢はないのでしょうか。
対話と協力の構想
お隣の東南アジア諸国連合(ASEAN)は、アジアサミット(EAS)を強化し、この地域を「対抗でなく対話と協力の地域」にし、ゆくゆくは東アジア規模の友好協力条約を展望しようという壮大な構想ーASEANインド太平洋構想(AOIP)を明らかにしています。軍事ブロックのような外部に仮想敵を設ける排他的枠組みでなく、地域のすべての国を包み込む包摂的な平和の枠組みをつくる「対抗でなく対話と協力の地域」にする構想です。
ヨーロッパでは、ソ連崩壊後、欧州安全保障協力機構(OSCE)という、ロシアを含めてヨーロッパのすべての国ぐにが参加する包摂的な枠組みが発展し、1999年には、欧州安全保障憲章をつくり、OSCEを「紛争の平和的解決のための主要な機関」と定めました。ところがOSCEの機能は生かされず、NATO諸国もロシアも軍事力によって相手の攻撃を「抑止」するという戦略を進めてきたという背景があります。
5月下旬に来日した、シンガポールのリー・シェンロン首相は、東京で行った講演で、次のように述べています。
「私たちはヨーロッパの経験を研究し、教訓を学ばなければならない。緊張を高め、ウクライナでの戦争に進んだ誤りや誤った相互作用を避けるために力を尽くさなければならない」「アジアでは"不運にも戦争が起きたら"にどうより良く準備するかだけでなく、地域の平和と安定を維持し、そもそもの紛争の危険性を減らすために、トラブル〔騒ぎ、問題〕が起きる前に、事前にどう共に仕事をするか〔協働するか〕を考えるべきだ」「日本と韓国では、自国への核兵器の配備を容認するかどうか、あるいはさらに進んだ措置や核兵器を開発する能力の構築までを含め、センシティブな問題が公然と持ち上がっている。しかし、もし地域安全保障を、個別の国の観点からだけ見るならば、軍拡競争と不安定な結末に終わりかねない。それゆえ、諸国は集団安全保障を強化するための協働もしなければならない」
7月の参院選では、日本の安全保障問題が大きな争点の一つになります。執行部としては、「戦争を未然に防ぐ外交努力が政治の最優先の役割」との声を広げていけるように取り組んでいきます。